『バルーン・タウンの手品師』松尾由美(創元推理文庫)★★★☆☆

『バルーン・タウンの手品師』松尾由美創元推理文庫

 『A Magician in Ballon Town』2000年。

 『バルーン・タウンの殺人』に続くシリーズ2作目。英題は「Balloon」の誤植かと思いましたが、フランス語やオランダ語では「Ballon」であるようです。
 

「バルーン・タウンの手品師」(1999)★★★★☆
 ――夏乃の出産に呼ばれて、茉里奈はまたバルーン・タウンを訪れた。夏乃の義母や美央や美央の子の父親も呼ばれて待機室に集まっていた。夏乃の夫だけは仕事の都合で海外に行くため来れなかったが、代わりにメッセージ入りのCDを置いていった。部屋の出入りがあるうちに、そのCDがなくなっていた。実は重要な機密だったらしく、スパイが紛れ込んでいる可能性がある。窓からCDを落とせば割れてしまうし、ダストシュートの前からは美央の子・玲奈が動かなかった。

 手品師というタイトルですが手品師に関係あるわけではなく、CDが消えてしまった状況が「誰かが手品を使った」ようであることに由来します。医師や新聞記者ら素人探偵が推理合戦を繰り広げます。水の性質を用いた推理小説のトリックのバリエーションで、バルーン・タウンならではのこれまでにない利用法が用いられていました【※ネタバレ*1】。
 

「バルーン・タウンの自動人形」(2000)★★★☆☆
 ――スタジアムでは創立記念祭の余興のオーディションがおこなわれていた。手品やコスプレ、シンクロナイズド腹式呼吸に、腹帯占い。プロの人形師もリハーサルに呼ばれていた。人形師がねじを巻くと、下着姿になった妊婦人形が腹帯を巻いてのけた。人形の調整のため部屋に籠っていた人形師が殴られ、百万円が消失するという事件が起こった。

 腹帯づくしの作品で、5万円札が存在する未来だからこそ可能な隠し場所にヤラレました。茉里奈は出張中で登場せず、事件を担当するのは今給黎刑事です。
 

オリエント急行十五時四十分の謎」(2000)★★☆☆☆
 ――妊婦の性描写で話題になった小説家の須任真弓が、妊婦で翻訳家の美央にインタビューしにバルーン・タウンを訪れた。サイン会の最中、一人の妊婦が須任にトマトを投げつけ、オリエント急行を模した占い小屋に逃げ込んだ。なかには六つの車室があったが、誰も犯人を目撃してはいないし、そもそも妊婦が二人すれ違えるほどのスペースがなかった。

 ことあるごとに「オリエント急行だから」という理由だけで【ネタバレ*2】を疑うくすぐりが楽しい一篇です。【ネタバレ*3】というものすごく強引な館(?)ものであり、妊婦というものの先入観【※ネタバレ*4】が利用されていました。
 

「埴原博士の異常な愛情(2000)★★★☆☆
 ――バルーン・タウンで妊婦が行方不明になり、埴原という精神科医が疑われた。聞き込みに行った茉里奈だったが、失踪者の本棚を見るといいと煙に巻かれてしまう。だが医師の言葉がヒントで失踪者は見つかった。博士が死産した赤子を食べているというのは噂に過ぎないようだが、テロの手引きをした疑いは残っている。茉里奈は美央に事件のことを話したが、ふだんは動じない美央が「出生の秘密」という言葉に狼狽えていた。お腹の子は佐伯さんの子どもではないのだろうか、佐伯さんと頑なに結婚しない理由はそこにあるのか――。

 埴原《はにばる》博士というあからさまにパロった人物が登場します。インパクトのある事柄によって重大なものを隠すという、いわば犯人側が住民たちに仕掛けたレッドヘリングでした【※ネタバレ*5】。美央が結婚しない理由と「出生の秘密」に反応した理由はたいしたものではありませんでした【※ネタバレ*6】。

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*1 母乳パックのなかにCDを隠して凍らせると不透明な母乳のなかでCDは見えなくなる。

*2 共犯

*3 手作りの壁を付け外しする

*4 太ってるのは実は腰回りだけ。

*5 裏の病院から実験用の胎児を横流しし、病院ではなく博士に悪い噂が立つようにしていた。

*6 第一子は実は双子で、一人は死産したため美央には知らされずにいた。真実をさぐるまでは結婚を留まっていた。


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