『向日葵は見ていた』西本秋(双葉文庫)★★★★☆

『向日葵は見ていた』西本秋(双葉文庫

 『Clytie was seeing』2010年。

 物語は二つのパートから成っています。

 博物館に勤める加納里名は、次の特別展のアイデアを探しに図書館に行き、印象的な写真集を目にします。『クリュティエは見ていた』と題されたその写真集はどこかノスタルジックで、特にひまわりの咲きほこる洋館の写真に心を惹かれました。写真家や洋館の場所を見つけようとするうち、ひまわり館が呪われているという噂を知ります。相次いで投函される百億円の不動産広告。受験のために居候に来た年の離れた弟が描いた、死んだ父親の絵。里名は思い出してゆきます……。

 小学四年生のコウは母親と増部荘、通称ひまわり荘に下宿していた。大家の志乃ちゃんはクソババアだ。最近、元銀行員の市瀬さん父娘が越して来た。娘の有羽は一言もしゃべらない。ある日、志乃ちゃんがとんでもないことを言い出した。自分は末期癌で先が長くない、宝箱の鍵を見つけたものにはすべてを譲ると。折も折、地上げ屋が立ち退きを迫って来た……。

 二つのパートは、重なるようでいてなかなか重なりません。二つの洋館は、おそらく同じものなのでしょう。呪いの噂も共通します。では里名が忘れてしまったことは何なのか。当時ひまわり荘で何が起こったのか。宝探しを始めた志乃の目的は何なのか。市瀬父娘は何者なのか。

 けれどもやがて、ほんとうに少しずつ少しずつリンクしてゆきます。百億円という金額だったり、銀行員という事実だったり、母と離れて父親と暮らしていたという記憶だったり、ゆるやかながら徐々に輪郭が見えて来ます。

 現代パートが目指すべき真実を見つける謎解きの旅だとするなら、小学生パートは苦くて甘酸っぱい思い出あり、立ち退き犯に立ち向かう活劇あり、ひまわりの呪いに怯える怪談ありと、一見いかにも王道の少年物語ふうです。

 けれど余所者を拒むひまわり荘の雰囲気の正体は、即物的な理由【※ネタバレ*1】であったりと、現実はロマンなどなく厳しいものでした。

 その後も小さなどんでん返し【※ネタバレ*2】が続くので、却ってインパクトが薄れてしまっているのは否めませんが、すれ違いが生んだ悲劇は切なく余韻を残します。【※ネタバレ*3

 誰もが期待したハッピーエンドは訪れませんでした。でも過ぎてしまったことはもとには戻せないからこそ、新しい一歩への期待も大きいと信じたいです。

 15年前の夏休み、ある村の下宿で、住人が一夜にして姿を消した。後には、呪われた館と、ひまわりと、ひとつの死体が残った。――ひまわりに囲まれた洋館で大人たちと暮らす少年の前に現れた美しい少女。固く心を閉ざす少女を救いたいという少年の願いが思わぬ悲劇を引きよせる。遠い夏の日を巡る追憶のミステリー。(カバーあらすじ)

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*1 全員に後ろ暗いところがあった。

*2 市瀬父娘は本当の親子ではなかった。コウは市瀬に殺されていた。etc...

*3 コウからすればまさか有羽が誘拐されていたとは思わなかったでしょうから、母親らしき人を見かけたことを黙っていたことも責められません。有羽からしても村全体が敵だと思ってしまうのも仕方のない状況でした。


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