各種媒体に発表した解説、読書日記、書評、対談を収録。
「解説」
もっとも“重要な”少女小説ということで『甘い蜜の部屋』『第七官界彷徨』『聖少女』の名が挙げられていますが、「重要」の意味するところがよくわかりません。
「リレー読書日記」
ガーネット『狐になった奥様』を「男って、ほんと、ときどきヘンなことをおっぱじめるなぁ」という流れで紹介してあるのが可笑しい。そう言われればそういう話なのでしょうか。
桜庭一樹や深緑野分の書評やエッセイの魅力は、紹介されている本が面白そうなだけでなく、本人が本当にその本のことを好きなんだな、というのが伝わってくるところです。森下雨村のエッセイ「猿猴 川に死す」もその好例でした。
辻原登『枯葉の中の青い炎』の「『海外女流作家綺譚集』みたい」というのは惹かれます。
キャロル・オコンネル『クリスマスに少女は還る』は確かに今さらな感じですが、「この違法なひっくり返しのために、ここまでの合法的なプロットがあったんだ」というのは至言です。
安房直子、懐かしいな。『名作版 日本の児童文学』で読んでいたような覚えがあったのですが、そのシリーズでは出ていないようです。何で読んだんだったかな。
イアン・マキューアンについては『桜庭一樹読書日記』でも触れられていました。
リレー読書日記の最後は本書のタイトルの由来ともなった「みんなで小説という毒を浴びてもっとずっと悪い人間になろう!」という言葉で結ばれます。その直前に紹介されているのがマーゴ・ラナガンの短篇集『ブラックジュース』です。一作目の「沈んでいく姉さんを送る歌」を評する「両手で頭を抱える奇怪な一品」という表現がツボ。『SFマガジン』2006年10月号に掲載の「地上の働き手」(俗世の働き手)は異形の天使が登場する作品でした。
「書評」
翻訳を通して消えてしまう笑いについて考えさせられる『ゴドーを待ちながら』評。誤解や誤訳はともかくとして、原語と日本語のリズムの違いだったり訳者と読者のセンスの違いだったりと簡単にはいかなそうです
書き下ろしの書評が3篇収録されていて、特に池波正太郎のエッセイから中華思想・革命思想と浅草の町内会との類似に思いいたる「浅草革命」と、『フルハウス』と続編『フラーハウス』を交互に観たことからスティーブン・キング『IT』を連想する「あのころの仲間と再会する」が出色です。
「対談」
道尾秀介、冲方丁、綿矢りさ、辻村深月との対談を収録。道尾氏が『エクソシスト』をおすすめミステリに選んでいるのは、よくわかります。あれはほんと、ホラーの枠に収まらない名作でした。辻村氏、桜庭氏ともに自作について「地方の閉塞感がよく出ている」と評されたそうですが、そういうものでしょうか。
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