『サブマリン』伊坂幸太郎(講談社文庫)★★★☆☆

『サブマリン』伊坂幸太郎講談社文庫)

 同じ講談社から出ている『チルドレン』のシリーズ第二作です。

 本書を読んでもフィクションならではのすっきりした爽快感はありません。勧善懲悪でもハッピーエンドでもなく、もやもやが残ります。

 悪い人たちではない。さりとていい人でもない。フィクションでくらいは、善いか悪いかだけでは計れない現実とは違うものを見たいものです。

 無免許で車を運転し、死亡事故を起こした少年。よそ見運転をして死亡事故を起こした不良少年。犬のリードを離して死亡事故を起こさせた老人。悪いといえば全員が悪いのですが、彼らが人殺しかと言えばそうではありません。

 ましてや少年事件。「大人の事件と違って、罰するのではなく、更生が目的なので」「非行行動を取っていたこと自体が問題なので」(p.241)。

 本書の優れている点は、無免許で死亡事故を起こした棚岡少年が被害者でもあり加害者でもあるところです。理不尽な少年事件に対して抱く、「なぜ大人と同じ法で裁けないのか」「同じ目に遭わせてやればいいのに」という憤り。罰するべきなのか更生すべきなのか、何が正解かなんてわかりません。けれど被害者が加害者に復讐したいという気持もわかります。それでも人が死んでいる以上、完全に共感できるとも言いがたい。

 そんなもやもやも、【ネタバレ*1】というフィクションならではのきれいな(とはつまり現実には有り得ないほど完璧な)締め方によって、少なくともミステリ的な満足は得られます。悪い人間なら殺してもいい――ということにはならないので、それでもやはりもやもやは残るのですが、すっきりしない物語をすっきりする構成でまとめて理屈ではすっきりさせなさを残すという、本書のようなテーマの作品にはちょうどよい終わり方だったと思います。

 家庭裁判所調査官の武藤は貧乏くじを引くタイプ。無免許事故を起こした19歳は、近親者が昔、死亡事故に遭っていたと判明。また15歳のパソコン少年は「ネットの犯行予告の真偽を見破れる」と言い出す。だが一番の問題は傍迷惑な上司・陣内の存在だった! 読み終えた瞬間、今よりも世界が輝いてみえる大切な物語。(カバーあらすじ)

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 サブマリン 




 

 

 

*1 事故で死んだ男はもし死ななければ殺人計画を実行に移していた可能性が高い。

 

 


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