『敗者の告白』深木章子(角川文庫)
解説にもあるとおり、一人【ネタバレ*1】でした。この仕掛けは大がかりであればあるだけ無理が出てきますね。原典は短篇だからこそのスマートさなのだと思います。さすがに【ネタバレ*2】がいないと危なっかしくて実現は難しいでしょう。実際、作中でも予定が狂っていましたし。
死者からの告発メールという検証不可能な証拠によって捜査側の心証が変わってしまうのは、人間が裁く裁判制度の限界とも言えるし、推定無罪の原則に照らして当然とも言えるのかもしれません。そこまで見越した計画、ということでしょうか。
とはいえ、犯人の仕掛けにしてもそうだし、妻の不倫に気づいた【ネタバレ*3】にしてもそうですが、なんだか無理矢理感が強くてすっきりしません。
動機にしても、精神的社会的に家族ぐるみで抹殺しようという意図はわかるものの、わざわざこの計画が必要かな、という引っかかりは拭えません【※ネタバレ*4】。確かに一石二鳥ではありますが。動機が普通じゃないとはいっても、さりとて狂人の凄みのようなものがあるわけでもありませんし。
死者からの告発メール、被疑者の告白、関係者の証言という、複数の告白体から成る構成は面白いですし、妻の言う通り夫が殺人犯なのか、息子の言う通り息子が殺人犯なのか、はたまた証言者たちの言葉から明らかになるように妻が身勝手な女なのか――といったどう転がってゆくかわからないスリルがありました。
ところが証言者パートでその面白味は止まってしまいます。そこで明らかになった妻の肖像がそのまま妻の真実の姿であって、そうだとしてでは誰がどのような動機で事件を起こしたのか――というところから弁護人の推測につながってゆき、単調なまま真相とされることが明らかにされて終わってしまいました。
証言による妻の肖像にもう少し意外性があったり、もう少し二転三転したりすればまた違ったのにと思いました。
とある山荘で会社経営者の妻と8歳の息子が転落死した。夫は無実を主張するも、容疑者として拘束される。しかし、関係者の発言が食い違い、事件は思いも寄らない顔を見せはじめる。遺された妻の手記と息子の救援メール。事件前夜に食事をともにした友人夫妻や、生前に妻と関係のあった男たちの証言。容疑者の弁護人・睦木怜が最後に辿り着く、衝撃の真相とは!? 関係者の“告白”だけで構成された、衝撃の大逆転ミステリ。(カバーあらすじ)
[amazon で見る]