文字通りドミノ倒しのように幾多の登場人物がパタパタと運命に押し倒され、やがて結末に向かってゆく名作『ドミノ』の続編です。『ドミノ』の連載開始が2000年なのでほぼ20年ぶりの新作となりますが、20年後に突然刊行されたわけではなく、巻末の初出一覧を見ると、2008年から2019年まで足掛け10年以上にわたって連載されていたことがわかります。
舞台が上海になっているだけで、前作とは無関係のドミノ倒しだと読む前は思っていたのですが、一部の登場人物は前作と共通していました。
上海ロケに来ていた映画監督フィリップ・クレイヴンのペットであるイグアナのダリオが、中華料理店で食材と間違われて調理されてしまった、という衝撃(笑撃?)の場面から幕は開きます。
プロデューサーたちは傷心のフィルに何とか撮影させようと、ダリオの霊を口寄せするため霊媒師ならぬ風水師を招きます。またショックのあまり肉も中華料理も食えないというフィルのため、デリバリーの寿司を注文します。
斯くして、風水師・蘆蒼星と霊が見える映画スタッフ安倍久美子と小角正がダリオの霊を成仏させるためホテルに集まり、保険会社を退職した加藤えり子と夫婦でデリバリー寿司店を営む市橋健児が寿司を配達するため改造バイクでホテルに向かいます。
ホテルの料理人・王湯元は調理したイグアナから玉が出てきたのを途方に暮れます。どうしたものかと悩んでいるうち、何者かが店内に侵入してしまいます。
宝石や骨董品を「誘拐」して「親」である元の持ち主に身代金を要求する窃盗グループ「GK」元締めの董衛員は、捜査が身近に迫ってきているのを感じていました。今も捜査員たちが張り込んでいるのがわかります。そんな時期だというのに、「誘拐」された「子」が手違いからイグアナの胃袋に収まってしまいました。
野生状態で生け捕られて動物園に入れられたパンダの厳厳は、知能も高く脱走の名人でした。今回も飼育員の隙を見て檻から出て郊外を目指します。
……というように、そのほかにも大勢の登場人物たちが、盗まれた宝石をそれと知っていたり知らなかったりしながら、ホテルに集結してゆく、というのは前作と同様です。
基本的にはユーモア・ミステリで、どのような運命の計らいによってパタパタとドミノが倒れてゆくのか先が読めないサスペンスでありながらも、そこに敢えてお約束を挟み込むのがヌケヌケとしていました。
パンダの厳厳の脱走シーンは完全に漫画というか、志村うしろうしろ!的な、気づけよ人間たちと言いたくなるようなシーンの目白押しです。風水師がエキストラと間違えられて映画のメイクをされてしまうのもベタな笑いの面白さでした。田上優子に至っては、ぶつかってばらけた荷物の取り違えというお約束を2回も続けてしまいます。
一方のサスペンスも、どう転がってゆくのかという先行きの見えなさはもちろん、やはり警察の張り込みシーンは緊張感が漂いますし、えり子や市橋健児にはバイクの見せ場もありました。何だかんだでクライマックスで一堂に会するのは盛り上がります。
装幀は前作単行本の方がよかったです。
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