『夏休みの拡大図』小島達矢(双葉文庫)★★☆☆☆

『夏休みの拡大図』小島達矢双葉文庫

 印象的なタイトルは、登場人物の一人であるちとせの一言「夏休みって人生の縮図だと思うんだ」(p.185)と、それに対する語り手・百合香のアンサー「だって夏休みが終わったらさ、二学期が始まるじゃない」(p.279)に由来します。夏休みが人生の縮図なら、人生は夏休みの拡大図だというわけです。

 高校卒業と就職を機に引っ越すことになったちとせ。翌朝には引っ越すというのにまだ部屋の整理も済んでいません。幼なじみの百合香は夜中に引っ越しの準備を手伝いに来たのですが、「ちょっとした借りがある」ため「(ちとせの)頼みごとは一切断らない」「奇人変人木嶋くん」まで手伝いに来ると聞いて顔をしかめます。小、中と一緒だった木嶋はトラブルメーカーでした。転入の挨拶で「名乗るつもりなんてない」とのたまい、前の席の女の子に花瓶の水をかけ、小屋の動物を逃がし、無銭飲食をし、ご飯におかずをぶっかける……。

 木嶋のやらかしたことを覚えていないというちとせに、百合香は当時の出来事を改めて話して聞かせます。ちとせは不思議な子でした。感覚的に本質を見抜く力を持ちながら、それ以外はてんで抜けていました。話を聞いてちとせは眼鏡をくいと持ち上げた。「もしかしてわかったの? あいつが水をかけた理由」「うん、一応」。

 青春ものとしてもミステリとしてもかなりゆる~い作りの作品でした。

 整理整頓をしていると、奥から出てきたものについ夢中になってしまって全然整理が進まないことがあります。だから引っ越しの準備を始めた夜中から引っ越してゆく朝方までのあいだにいろいろと昔のことを思い出したりするのは自然なことではあると思います。……とは思うのですが、さすがに百合香は何でもかんでも忘れすぎだし考えなさすぎで、うんざりしました。

 第一章で小さなエピソードを描いて顔見せしたあと大きな話に移るのかと思ったら、小さなエピソード×六章分でした。各話が独立しているのならそれでもいいのですが、すべて一晩のうちに思い出したことになっているので、どうしてそんなに忘れているんだというツッコミと、わざわざ思い出すというドラマチックな導入のわりには内容もしょぼいしで、一晩の話にしたのは失敗だと思います。

 第一章、第二章と、百合香はちとせのことなんてすっかり忘れていて、なんで友だちなんだろう、この二人、と思ってしまいました。第一章が顔見せだと思ったのは、それくらい水をかけた理由が見え見え【※尿を漏らしてしまった女の子をかばうため木嶋がさらに水で濡らした】だったからですが、第二章で孤立していたちとせを救ったことはともかく攻撃したことも忘れてしまっていると、またかよ……となります。木嶋がフォローしたように【耳の聞こえない母親に見せるため合唱コンクールで振り付けしようとした】指揮者と担任代理は自分勝手ですが、今になって百合香の勘違いを暴くちとせもひどい。。。

 第三章はおそろいのストラップと、欠けてしまったもう一人の友だちの話。第六章で友だちが疎遠になった理由が判明しますが、これ、友だちが悪いよね。。。【※こっそり付き合っていた彼氏を取られると思って疎遠になり、そのうち妊娠してしまってそのまま退学】いくら子どもだからって、もっとコミュニケーション取ろうよ……。

 第四章では木嶋の奇行の理由が本人の口から語られます。ご飯におかずをぶっかける理由【※ベジタリアンの母親に育てられたせいで肉を受けつけなかったが、そうすれば食べられた】もあまり説得力がありませんでした。

 第六章では疎遠になっていた友だちとの関係も修復できそうなことが示唆されていました。

 いい話ふうのエピソードばかりでしたが、以前に行動しなかったことを今になって掘り返しているみたいで好きになれませんでした。それもこれも高卒引っ越し前の一晩で思い出した話、という設定のせいだと思います。

 小学校からの幼なじみである親友のちとせが、実家から引っ越すことになった。百合香は片付けを手伝いながら、これまでに学校で起きた「事件」を振り返る。ちとせのあざやかな「推理」を聞いていると、ほとんどが百合香の思い違いや思い込みであったことに気づき愕然とするのであった。『ベンハムの独楽』でデビューした著者が描く鮮やかな青春ミステリー。(カバーあらすじ)

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