『ドラキュラ紀元一八八八』キム・ニューマン/鍛冶靖子訳(アトリエサード)

ドラキュラ紀元一八八八』キム・ニューマン鍛冶靖子訳(アトリエサード

 『Anno Dracula』Kim Newman,1992/2011年。

 創元推理文庫から出ていた『ドラキュラ紀元』の増補完全版。
 

ドラキュラ紀元一八八八』(Anno Dracula,1992)

 改訳はされているものの文庫版を既読なので、今回は読むのを見合わせました。
 

「著者による付記」(2011)

 著者自身による元ネタ明かしと、裏話的な内容です。ホームズが収容所送りなのは、ホームズなら切り裂きジャック事件を未然に防いでいるはずだという矛盾を回避するためだとか、当初はポオが吸血鬼ビリー・ザ・キッドを追いかける西部劇にするつもりだったとか、アルマジロが登場する理由だったりが語られています。
 

「謝辞」(2010)
 

「あとがき」(2010)

 ドラキュラが勝利した世界というアイデアと、切り裂きジャックをどのように絡ませるかが如何にして形作られていったか。
 

「もうひとつの結末」(Alternate ending to Anno Dracula,1992)

 『ドラキュラ紀元』の原型となった中篇「Red Reign」の結末部のみ収録。結末の違い意外はほぼ『ドラキュラ紀元』に吸収されているそうです。大筋で違いはないものの、この結末では続編が違ったものになっていたことでしょう。
 

「映画『ドラキュラ紀元一八八八』より」(Extracts from Anno Dracula: The Movie)

 映画シナリオの草稿の抜粋。結末とそれに関する著者コメントが興味深い。
 

「ドラク・ザ・リッパー」(Drac the Ripper,2005)

 そもそものはじまりは「もしドラキュラが切り裂きジャックだったら?」というアイデアだったようです。それが現在の形に反転し、「あとがき」でも語られている犯人になりました。
 

「死者ははやく駆ける」(Dead Travels Fast,2000)★★★★☆
 ――巨大な工場の中で、溶けた鉄が滝のように落ちて鋳型に流し込まれる。マシンガムは危険な距離で見学しているド・ヴィユ伯爵に声をかけた。見学が終わったとき、伯爵が納屋のような建物を示してたずねた。「あの建物は何か」「弊社では発明家に場所を提供しております。爆発によって動くエンジンという突飛なアイデアに邁進しているのです」。発明家が反論した。「爆発ではなく燃焼だ。蒸気の五倍も強力なんだぞ」。「乗ってみてもかまわぬか」伯爵が座席を示してたずねた。

 著者注によれば、もともとは『吸血鬼ドラキュラ』物語の隙間を埋めようというアンソロジー企画のために書かれたものの採用されなかった作品ですが、『ドラキュラ紀元』シリーズとも時系列的に矛盾しないため本書収録となったようです。『吸血鬼ドラキュラ』は遠い昔に読んだきりなので、「新しい輸送方法に対する熱狂」というドラキュラ伯爵の特質は覚えていませんでした。吸血せずとも血を見せるあたりに著者のこだわりを感じました。
 

「登場人物事典」

 文庫版にもあった訳者による労作の加筆版。

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