『探偵ジェスパーソン&レーン 夢遊病者と消えた霊能者の奇妙な事件(上・下)』リサ・タトル/金井真弓訳(新紀元社)★★★★☆

『探偵ジェスパーソン&レーン 夢遊病者と消えた霊能者の奇妙な事件(上・下)』リサ・タトル/金井真弓訳(新紀元社

 『The Curious Affair of the Somnambulist and the Psychic Thief』Lisa Tuttle,2016年。

 『幻想と怪奇1』(→記事を見る)に訳載されていた「贖罪物《デオダンド》の奇妙な事件」(2011)の探偵コンビが活躍する長篇作品です。説明的でキワモノめいた邦題ですが原題も似たようなものでした。邦題とカバーイラストのせいで、届くべき人に届くのかな、と危惧しないでもありません。帯には「すれっからしシャーロキアンの心をもがっちり摑むリサ・タトル。好き。」という池澤春菜の解説の言葉が引用されているので、少なくともシャーロキアンには届くでしょうか。

 時系列的には「贖罪物の奇妙な事件」は出会って最初の事件であり、本書は「夏じゅう忙しくなるほどの依頼人はいた。わたしたちは奇妙で不可解な事件をいくつか解決した」あとの事件ということになっています。

 出会いのシーンは短篇を踏襲していますが、ミス・レーンが急遽ロンドンに戻った理由がより詳しく説明されていました。二人の出会いこそホームズ・パロディですが、ホームズと同等の洞察力を持つワトソン役という存在は何度読んでも面白く小気味よいものでした。対等なのでワトソン役という用語自体が不適切でしょうか。

 フェミニズムにかぎらず法律や道徳などでジェスパーソンとレーンが言い合いになることはありますが、さほど掘り下げられることはないのでストーリーの妨げになることはありません。エキセントリックな探偵=当時の常識には縛られない存在というのは相性がいいのでしょう。

 短篇「贖罪物の奇妙な事件」を読んだ読者は、これがオカルト探偵ものだとすでにわかっていますが、本書上巻の時点ではまだ超常的なものの存在ははっきりとは断定されていません。ミス・レーンは心霊現象研究協会の同僚がインチキしているのを発見して袂を分かったという事情が明かされているものの、心霊現象に懐疑的なのかどうかもよくわかりません。だから上巻は比較的ストレートな探偵ものでした。それに出会いの場こそ丁々発止に見えましたが観察力はジェスパーソンに分があるようで、交霊会ではレーンはワトソン役に甘んじているようです。

 大家さんの妹の悩みを捜査することで家賃一か月分を相殺してもらうことになったジェスパーソンたちは、妹の夫アーサー・クリーヴィーが夢遊病に悩んでいることを知ります。結婚してからは症状が治まっていたのだが、この10月からまた再発したというのです。同じ頃、袂を分かった心霊協会員ガブリエル・フォックスがジェスパーソンの許を訪れ、霊能者の連続失踪事件の調査を依頼します。ガブリエルが新しく出会ったフィオレルラ・ギャロというイタリアの霊能者は、貴金属から持ち主の情報を読み取ることができることから、失踪した霊能者ヒルダ・ジェソップの日記を読み取ってもらおうと考えます。そうこうしているうちアーサー・クリーヴィーが夜中に抜け出し彷徨いたどり着いたのは、心霊協会の大物ベニントン卿の邸宅でした。後日ベニントン卿の邸宅で開かれた霊能者C・C・チェイスの交霊会で一同は会し、チェイスは交霊を成功させ、ギャロは恥を掻かされ、レーンはチェイスから色目を使われます。

 下巻ではレーン主役のサスペンス色が強くなります。

 もちろんやがて夢遊病者と霊能者失踪が繋がり、霊能力(超能力?)の存在が前提となる真相が待ち受けていました。そしてそれにより相棒レーンの立ち位置もはっきりしたように思います。対等とはいっても探偵二人制というわけではなく、共存関係というのが近いでしょうか。いや頭脳担当と肉体担当のような、能力の違いという方が正確かな。本書ではレーンの能力が事件の肝でもあったわけですが、続編以降でそれがどう活かされるのか注目です。

 ヴィクトリア朝が舞台で登場人物もホームズ物語を読んでいるという設定のなか、ミス・レーンのファースト・ネームはホームズというよりはエルキュール・ポワロでした。女性扱いを嫌がって女性名を拒否しているのかと思いきや、キラキラネームだったとは。これはそういう、ミスリードによるギャグだと思っていいのでしょうか。。。英語読みだとアフラダイティなのでそれで愛称がダイ(Di)というわけでもないようです。

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