『ハイ・シエラ』W・R・バーネット/菊池光訳(ハヤカワ・ポケット・ミステリ1726 ポケミス名画座)
『High Sierra』W. R. Burnett,1940年。
ハンフリー・ボガードの出世作『ハイ・シエラ』の原作小説。
大物の手筈で刑務所を出所した銀行強盗ディリンジャー一味のロイ・アールは、その代わりに大きなヤマに協力することになります。ところが一緒に組む若造たちはナンパした女マリイに計画をバラして一緒に暮らしているようなバカどもでした。ロイならずとも怒って当然、トラブルになるのが目に見えています。
ところがマリイの方が一枚上手だったのか、計画を知っている以上は一蓮托生、あたしがトラブルは起こさせない、とばかりに何だかんだ言いくるめてしまいます。
ご都合主義的とは言えファム・ファタルがいないと始まらないしなあ……と思いきや、ロイは堅気の女の子に一目惚れするという予想外の伏兵が待ち受けていました。
自動車のトラブルがきっかけで知り合った農夫の孫娘ヴェルマに惹かれ、内反足の手術代を負担し、婚約者がいることも確認せずに一方的に愛をそそぎ、ロイの方が計画をぶち壊しそうな勢いでした。これで38歳。犯罪ばかりで恋愛をして来なかったのか。映画は未見ですが、これをハンフリー・ボガードが演じたのかと思うと、いったいどういう演技をしたのか怖い物見たさで見たくなります。
その後は案の定マリイを巡ってトラブル発生、ロイが収めたことで男と女の関係になり、結果的に一味として安定感が出るのが面白い。上下関係の世界だな、と。
いよいよ強盗を実行するも、犬とマリイのせいであっさり失敗。頼みの綱もタイミング悪く病死するという弱り目に祟り目。一つのミスをきっかけに瞬く間に潮目が変わって転落してしまいます。きっかけとなる犬とマリイのミス【※ネタバレ*1】を、「偶然ではない。トラブルだ。」と言っているのが象徴的です。結局はリーダーの責任と考えれば、ロイの自業自得です。
すべてを失ってゆくロイは最終的にはマリイに依存しながらも、犬とマリイだけは逃がそうとする、ここらへんの情けなくも男気溢れるところにアウトローらしさを感じます。
タイトルのハイ・シエラとは、舞台になっている山岳地帯の名称です。
訳者が「始末する」という言葉を「殺す」という意味ではなくどうやら「片をつける」「始末をつける」という意味で使っているらしいところが何か所かあって気になりました。古風な用法だと思います。
銀行強盗の罪で服役していたロイ・アールは、六年あまりの刑務所暮らしを終えて出所した。彼はその足で、かつての仲間であるビッグ・マックのもとへ向かう。犯罪プランナーであるビッグ・マックが大きな仕事を用意していたのだ。計画は、カリフォルニアの高級ホテルを襲う強盗だった。すでに現地で待機している手下たちと高山のキャンプ場で落ち合ったロイは、そこで彼らに同道していた女マリイと出会う。やがて綿密な計画は実行に移される……ラオール・ウォルシュ監督が映画化し、ハンフリー・ボガートの出世作として知られる名作映画の原作。(裏表紙あらすじ)