『爆弾魔 続・新アラビア夜話』R・L・スティーヴンソン&ファニー・スティーヴンソン/南條竹則訳(国書刊行会)★★★☆☆

『爆弾魔 続・新アラビア夜話』R・L・スティーヴンソン&ファニー・スティーヴンソン/南條竹則訳(国書刊行会

 『More New Arabian Nights: The Dynamiter』Robert Louis Stevenson and Fanny van de Grift Stevenson,1885年。

 『新アラビア夜話』第一部の続編で、フロリゼル王子も登場し、アラビア人が語るという形式も踏襲されています。旅先で体調を崩して寝込んでしまったスティーヴンソンに請われて、妻のファニーが語って聞かせた話がもとになっているそうです。

 現在は煙草屋を経営しているフロリゼル元王子(ゴッドオール)の店を訪れた三人の若者がそれぞれ経験する冒険譚が収められていて、実はすべてが繋がっていたという趣向です。
 

「チャロナーの冒険――御婦人方の付添い役」(Challoner's adventure: The Squire of Dames)
 ――爆発音がして家から二人の男と上品な服装をした若い婦人が慌ててとび出して来て逃げ出した。アシーナスと名乗る婦人はチャロナーに事情を話すのだった。
 

「破壊の天使の話」(Story of the Destroying Angel)★★★★☆
 ――わたしの父は英国の生まれでしたが、合衆国へ向かい、開拓者の探検隊に加わりました。モルモン教のキャラバンと連れ立ち、母と出会って結婚しました。わたしはただ一人の子でした。教団から多額のお布施か命の選択を迫られ、父は逃げ出す決心をしました。ですが監視の目からは逃れられませんでした。父の死後、わたしは宣教師のグリアソン博士の息子と結婚することになりました。ところがロンドンで待つわたしの許を訪れたのは、若返りの薬を夢見るグリアソンその人でした。先ほどついに完成した薬が床に落ち、爆発したのです。

 チャロナーの物語は「御夫人方の付添い役」「破壊の天使の話」「御夫人方の付添い役(結び)」の三章から成り、「破壊の天使の話」が枠物語になっています。全体の仕掛けとして、枠物語の形式をうまく活かした仕掛けが施されていました。解説にも書かれてあるように『緋色の研究』に影響を与えたと思しい「破壊の天使の話」自体が滅法おもしろいうえに、それが【爆弾魔一味であるクララ(作中のアシーナス)の作り話だった】という仕掛けによって、総題となっている「爆弾魔」へと収斂してゆきます。
 

「サマセットの冒険――余分な屋敷」(Somerset's adventure: The Superfluous Mansion)
 ――人で溢れる路上に馬車が停まり、サマセットを拾ったのは、美しい老婦人だった。話相手が欲しいという老婦人は自身の境遇を語り始めた。

「気骨のある老婦人の話」(Narrative of the Spirited Old Lady)★★★☆☆
 ――わたしはヘンリー・ラクスモアと結婚して、クララという娘を生みましたが、虐げられた国民を気にして頭が変になって家を出てしまいました。わたしはジェラルディーン大佐に貸していたこの家を訪れました。誰もいませんでしたが、やがてフロリゼル王子と青年が入って来ました。話し合いのあと青年が毒を飲みました。

「ゼロの爆弾の話」(Zero's Tale of the Explosive Bomb)★★★☆☆
 ――ラクスモア夫人から留守宅を任されたサマセットは、生活費を得るためジョーンズ氏なる男に部屋を又貸しした。ジョーンズ氏は実はゼロと呼ばれる爆弾魔であり、このあいだ三十分後に爆発する時限爆弾を密使のマグワイアに預けたのだが、その顛末をサマセットに話して聞かせた。

 サマセットの物語は「余分な屋敷」「気骨のある老婦人の話」「余分な屋敷(承前)」「ゼロの爆弾の話」「余分な屋敷(承前)」「余分な屋敷(結び)」から成ります。「気骨のある老婦人の話」によって、チャロナーの冒険に登場したクララがラクスモア夫人の娘だということが判明します。また、「ゼロの爆弾の話」ではチャロナーが真相を知るきっかけになったマグワイアが主役を務めます。

 「気骨のある老婦人の話」は、フロリゼル王子暗殺を指示されるもその勇気がなく毒を喰らい、共犯者も合図がないので失敗を悟って自死するという、『自殺クラブ』の一篇であってもおかしくないような話です。

 「ゼロの爆弾の話」は、マグワイアがなかなか爆弾を設置できずに右往左往するというちょっとお間抜けな話です。
 

「デスボローの冒険――茶色の箱」(Desborough's Adventure: The Brown Box)
 ――ハリー・デスボローがテラスで出会ったテレサという美しいキューバの娘は身の上話を話し始めた。

「美わしきキューバ娘の話」(Story of the Fair Cuban)★★★☆☆
 ――父はヨーロッパの人間でしたが、母はアフリカの王族で奴隷でした。マダム・メンディザバルという元奴隷で今はキューバの奴隷に影響力を持った巫女が現れ、わたしは自分の境遇を知ったのです。父は不正に得た宝石の隠し場所をわたしに教え、わたしを奴隷から解放しようとしてくれました。逃げ出したわたしは、生贄の儀式の最中に竜巻に巻き込まれて死んだマダム・メンディザバルの名を騙ったことから、若返りの魔法を使ったと思われました。そんなことがあって以来、キューバ密偵に狙われているのです。

 デスボローの物語は「茶色の箱」「美わしきキューバ娘の話」「茶色の箱(結び)」から成ります。テレサ(クララ)とデスボローが結ばれ、ゼロの爆弾は不発に終わるというハッピーエンドを迎えます。

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