『されば愛しきコールガールよ 私立探偵パーデュー・シリーズ①』ロス・H・スペンサー/田中融二訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★☆☆☆☆

『されば愛しきコールガールよ 私立探偵パーデュー・シリーズ①』ロス・H・スペンサー/田中融二訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)

 『The DADA Caper』Ross H. Spencer,1978年。

 何かのミステリ・ベスト本で紹介されていて、短い章のすべてにアンダーウッドじいさんという酔っ払いの警句が掲げられている、という趣向だけで面白かったので読んでみました。

 実際のところはそれほど面白くありません。せいぜい「わしの友だちで、ニトログリセリンを積んだトラックをアラスカまで運転して行く仕事を請負ったやつがいて……今でもそいつの名前をつけた谷があるよ」というのが面白かったくらいで、ほかはたいしたことは言ってません。たいしたことじゃないものを、わざわざご大層にエピグラムに掲げているのが面白いということなのかもしれませんが。

 内容はというと、コールガール(売春婦ではない)のベッツィと付き合っている迷探偵のチャンス・パーデューが事務所を馘首になって、独立後に新しい依頼を受けるたびに前の事務所の所長を犯人と間違えてトラブルを起こすという繰り返しのお約束でした。繰り返しのお約束と言えば、夜な夜な男を襲うデブおばさんというのや、パーデューが肩をすくめてばかり、というのもありました。ハードボイルドのパロディというより、コントみたいなノリでした。文章じゃなくて映像なら笑えたかもなあ。

 それでもどうやら、合衆国政府の代理人から依頼が舞い込みます。破壊活動組織DADA(デストロイ・アメリカ、デストロイ・アメリカ)が新しい活動を計画している。首領のNivlek Ystebの手がかりはない。国家の安全が危険にさらされている。ついては敵を欺くためにガールフレンドと同居してくれ……。

 一人称私立探偵小説よろしくあることないこと気取った台詞を吐き捨てますが、パーデューはすぐに脱線します(ボケます)。それはもうベタすぎて困るくらいに。FBIやCIAに続けてPTAの名を出したり、保険会社の名前をあまり似ていない殺虫剤会社と間違えたり、ほんとしょーもないです。

 しょーもないわりに、破壊活動家の正体はきっちりミステリしていて、ちょっと感心してしまいました。【※ベッツィがパーデューと一緒にいたいがために企んだインチキ依頼。首領の名前はベッツィの逆綴り

 訳者あとがきでブローティガンの名前が出て来て、あのブローティガン?と怪訝に感じたのですが、ブローティガンは『バビロンを夢見て』という私立探偵小説(?)も書いているようです。

 チャンス・パーデュー、それがおれの名前だ。私立探偵。スローガンは、なんでも引き受けます。しかし、開店そうそうなかなか依頼人はないものだ。あったにしても、ろくなもんじゃない。見かねてコールガールのベッツィが、事件の依頼人を紹介してくれた。それもやっぱりコールガールで、しかも相当セクシーだった。事件もそっちのけで、おれに迫ってくる……アメリカをほろぼそうとする秘密組織のボスを捜してくれという依頼が来たのも、そんな時だった! 独創的なスタイルで描く、一読笑殺、驚天動地のナンセンス・ハードボイルド第一弾!(カバーあらすじ)

 [amazon で見る]
 されば愛しきコールガールよ 


防犯カメラ