『植物怪異伝説新考』というタイトルから、植物にまつわる妖怪や怪談を紹介して考察しているのかな、と思ったのですが、(少なくとも上巻は)古典籍に記されている突然変異や奇形についての考察でした。妖怪好きが期待するような話は下巻[bk1・amazon]の後半になって登場します。
本書で扱われる〈怪異〉とは、有名なところでは「相生の松」や「八重桜」といったような、珍しい姿形の植物を指しています。
もっとも、「怪といい異というものも見る人によってちがう」とあるように、現代の目から見れば科学的に説明のつくことでも、当時の人にとってはじゅうぶん〈怪異〉だったのでしょう。〈妖怪〉というのとはタイプが違うにしても。
上巻に収録されているのは1.霊異篇「瑞祥と見倣されたもの」「凶兆と見倣されたもの」。2.形異篇「形の巨大なもの」「形の矮小なもの」「形の畸異なもの」。3.色異篇「色の異常なもの」。4.化異篇「発生起源の異常なもの」。
こうしたテーマごとに種々の古典籍からの引用が紹介され、当時その植物が人々にどのように思われていたのか、がまず明らかにされています。これがまず何よりも貴重です。古典に登場する植物のリファレンス・ブックとして高い価値を持ちつづけることでしょう。その後、扱われている植物に応じて、「福草」と呼ばれた植物の正体はなんであるのか、「大梨」や「五色梅」は実在し得るのか、などなど現代の目から見た考察も加えられています。
何が瑞兆とされ何が凶兆とされていたのかまとめられているだけでも、古典文学や民俗学に興味のある人にはありがたい。読物としても、地味だけれど古典や伝説や縁起譚が好きな人なら面白いと思う。
せっかく索引がついているのに事項索引だけで、植物名では引けないというのが残念。これではほとんど無意味な索引ではないだろうか。
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