『植物怪異伝説新考(下)』日野巌(中公文庫BIBLIO〈異の世界〉)★★★☆☆

 古典籍に記されている突然変異や奇形についての考察を集めた『植物怪異伝説新考』の後半です。下巻には「妖異篇」があるので期待したのだけれど、基本的には上巻と同じような地味な研究でした。

 著者はもともと妖怪研究家などではなく植物学者であって、本書も風変わりな植物を集めた資料集なのですから仕方がないのですが。

だから『豊後風土記』にある土蜘蛛退治(ここでいう土蜘蛛はそもそも妖怪ではなくてまつろわぬ民そのものなのですが)の様子を引用しても、椿には霊力があることの傍証にしか用いません。

 尺穫虫や血の出る樹、箒木など妖怪好きの心をくすぐる怪異も数多く登場するのですが、いろいろな書物から引用したあとで「当時には割合よく知られた怪異であったようだ」といって済ましてしまうのももの足りない。

 怪異伝承を楽しむというよりは、上巻を読んだときも感じたように「桑や椿は魔よけの効果があると信じられていた」とか「琥珀は虎の瞳の変じたものだと思われていた」とかいう基本的知識を確認するためのリファレンス・ブックとして重宝しそうではあります。それだけに、返す返すも索引をもっと充実させてほしかったところ。

 こういった感想は妖怪好きとしての感想であって、植物学の立場からはまた違った評価がもたらされるのでしょう。
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