『リベルタスの寓話』島田荘司(講談社)★★★★☆

「リベルタスの寓話」★★★★☆
 ――中世クロアチア自治都市、ドゥブロブニク。ここには、自由の象徴として尊ばれ、救世主となった「リベルタス」と呼ばれる小さなブリキ人間がいた――。ボスニア・ヘルツェゴヴィナの一都市モスタルで、心臓以外の臓器をすべて他の事物に入れ替えられるという、酸鼻をきわめる殺人事件が起きた。殺されたのはセルビア人の民族主義グループの男たちだが、なぜか対立するモスリム人の男の遺体も一緒に残されていた。民族紛争による深い爪痕と、国境を越えて浸食するオンライン・ゲームによる仮想通貨のリアル・マネー・トレード。二つの闇が交錯するとき、複雑に絡み合う悲劇が起こる。(帯裏あらすじより)

 ミタライもの。何よりもこの大ベテランが、現在の現実にコミットしている作品を書いてそれなりの成果を上げている点が驚きです。若手も箱庭で遊んでる場合じゃないぞ。

 島荘ミステリとしては標準作。作中ファンタジーは相変わらず魅力的。残酷描写が生々しくもグロテスクでもなく詩的といってもいいのも、まるでファンタジーの続きみたいです。ただし肝心の謎=奇想が弱い。島荘にはどうしてもコード型ではない新たな奇想を期待してしまうので、猟奇殺人とか切り裂きジャックとかいう一言で表現できてしまう謎だとちょっと当てが外れる。Whyが解ければHowも解けてWhoも明らかになって――それぞれに密接に関わるキーを一つ見つければ芋蔓式に明らかになる真相は、(地味ではあっても)やはり上手い。複数視点がミステリとしては上手くいってない反面、ゲーム世界の描写なのか現実世界の描写なのかが判然とさせない点には成功していました。
 

クロアチア人の手」★★★★☆
 ――2006年の2月のことだった。寄居という刑事から電話がかかってきた。「非常に妙な事件なんです」芭蕉記念館に宿泊していたクロアチア人が、内側からしか鍵の掛けられない金属扉のなかで、密室状態で死んでいた。上半身の浸かった水槽には、ロビーにいたはずのピラニアが入れられていた。失踪した連れのクロアチア人は、通りで爆死していたのを発見された。

 奇想に関してはこちらの方が奇天烈でした。やりたい放題に見える謎のばらまき方にやはりセンスがあります。機械トリックというと低く見られがちだけれど、悪夢を具現化してしまった力業に著者らしさを感じます(というか、そこまでして悪夢を現実化させたいかという著者の無駄な熱意みたいなものに微苦笑)。奇天烈な謎が、御手洗から指摘されて別の見方をすれば、あっという間にこれしかないという真相に早変わりするのが見事でした。

 ハインリッヒものと石岡君もののカップリングは珍しい。こうしてみると石岡君っていらいらするなぁ(^_^;。だけどハインリッヒと一緒だと御手洗まで人格が変わって外国人みたいになるから嫌なんだよな。あと、なんか本篇で、御手洗が謎解きから遠ざかるんじゃないかと不安を誘うような発言がありました。

 二篇とも島荘にしては大トリックでもない小さな事物の積み重ねなのが少〜しばかり物足りなかった。
 ----------------

  『リベルタスの寓話』
  オンライン書店bk1で詳細を見る。
 amazon.co.jp amazon.co.jp で詳細を見る。


防犯カメラ