『IN★POCKET』も購入。『陰摩羅鬼』がなかなか刊行されなかったのは『ファウスト』太田のせいだったようです(^_^;。
今回は意識的にある程度〈キャラ〉を封印していた作品でした。榎木津は暴れないし益田は調子出ないし関口はしっかりしてるし、木場はほとんど出番がないし。うじうじキャラが嫌いなので、関口がしっかりしているだけでも読みやすくてよかったです。
でもその代わり、犯人の目を通した困ったちゃんたちや、自分は世界の中心だと勘違いしている語り手が、山ほど登場するわけですが。馬鹿キャラとかゲージツカとか真性の電波とか人のせいキャラとか、脇役のおばさんとか。
でもそういう勘違いが仕掛けの作品でもあるのでしょうがないですけどね。
世界がズレていることを読者にももっと隠しておいた方が、最後でもっと驚けたと思うんですけど、『陰摩羅鬼』『邪魅』と二作つづけて、あまり「犯人を隠す」とか「真相を気取らせない」とかいう方向にはポイントが置かれていないみたいです。
「自分は世界の中心だ」という思い込み視点からは、容易に「セカイ系」を連想できるけれど、そうなると作中の「評論」談義も、世界と世間のズレが問題にされているんであって、現在まで続く一連の批評家批判とは関係ないんですね。
中盤はほとんど警察小説みたいなことになっていて面白かった。しかも次々に事件が起こるから、常に「山さん、事件です!」状態で見せ場の山なわけです。京極堂の蘊蓄でも榎木津の暴れっぷりでも妖怪の魅力でもなく読み進められる、というのは、京極堂シリーズのなかではやや異色。西村京太郎が好きなおばあちゃんにもすすめられる(?) 青木刑事、益田元刑事、山下警部補、郷嶋刑事、北林本部長、渋沢管理官、斉藤刑事、藤村刑事、亀井刑事、木下刑事……おばあちゃん的にはやっぱり山下警部補、かな。
今回も妖怪の蘊蓄がほぼありません。しかも関口がぽつりと又聞きで。。。京極氏の言葉を借りて言えば、「もの」としての妖怪ではなく「こと」としての妖怪はきっちり描かれてはいるわけですが。昔の時代のどこかの共同体が「邪魅」と名づけたであろう「こと」を描いている、という意味ではまぎれもない妖怪小説ですし、その点ではこれまでの作品のなかで一番成功していたと思います。「魍魎」とかもそうだけど、「邪魅」みたいにほとんど「お化け」と同義みたいな妖怪の場合、こじつけ感がないということもあるので。
次回作が『鵺の碑』だそうです。歴史の古い化物なので、蘊蓄はたっぷりと期待できそうです。
江戸川、大磯で発見された毒殺死体。二つの事件に繋がりはないのか。小松川署に勤務する青木は、独自の調査を始めた。一方、元刑事の益田は、榎木津礼二郎と毒殺事件の被害者との関係を、榎木津の従兄弟・今出川から知らされる。警察の捜査が難航する中、ついにあの男が立ちあがる。百鬼夜行シリーズ第九弾。(カバー裏あらすじより)