『クロイドン発12時30分』F・W・クロフツ/加賀山卓朗訳(ハヤカワ・ミステリ文庫)★☆☆☆☆

 『The 12:30 From Croydon』F. W. Crofts,1934年。

 クロフツはそこそこ好きな作家なのですが、これはちょっと……というか全然だめでした。

 まったくアリバイものにはなっていないのに、フレンチの自己解説を読むかぎりでは(策を弄しすぎ云々)、アリバイもののつもりで書かれているようです。でもそもそもアリバイが意味を持つような作品ではないし。いえ犯行機会どころか、犯行動機も犯行手段もまるで無頓着で、「決定的なミス」にも「決定的な安全圏」にも欠けるので、虚心に捜査するなら誰が犯人にされてもおかしくないような話なんですよね。

 でもフレンチが相変わらずの見込み捜査で(倒叙ものの探偵の場合は基本的にそうなんだけど)、警察の捜査の過程も書かれておらず、最後にどーとでも取れるようなことを自己解説するだけなので、取ってつけ感が否めません。しかもフレンチが残されたメモから場所を推理するという毎度おきまりのご都合主義パターンだし。そこは犯人側の「決定的なミス」がきっかけじゃないと……。いやそもそもの犯行計画の時点で「決定的な安全圏」にいられるような計画じゃないしなあ。。。

 途中で法廷シーンがあるのですが、これも意味不明でした。検察側・弁護側双方の証言や弁論が事細かに描かれた迫真のやり取りなのですが、それだけ盛り上げておいて、フツーに評決。。。結局、作品のなかの必然性ではなく、細かいところまでしっかり書きたがりのクロフツ病が顔を出しただけなのでしょう。

 タイトルだと鉄道ミステリっぽいけど、飛行機の離陸時刻でした。

 完全犯罪を成功させろ! 工場を経営するチャールズは窮地に陥っていた。資金繰りが苦しくなり、従業員たちの給料さえ払えなくなる日も近い。頼りだったおじのアンドルーにも借金をきっぱりと断わられてしまった。だが、絶体絶命のチャールズの脳裏にある危険な計画が閃いた。莫大な遺産を残してくれるはずのおじを完璧なアリバイとともに毒殺することができないだろうか? 倒叙ミステリの礎を築いた名作が新訳版で登場。(カバー裏あらすじより)
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