『ユリイカ』1月臨時増刊号(平成24.12.25/44-16)【百人一首 三十一文字にこめられた想い】

 水原紫苑の対談が掲載されているので購入しました。ちはやふるのおかげで競技かるたブームであるらしく、それにともなう百人一首特集のようです。目次の裏に百首すべて掲載されています。

百人一首の魅力 恋歌を主軸として」有吉保
 百人一首の大部分を占める恋の歌を、さらに恋愛タイプ別に分類したもの。すごい悪文で読みづらい。

「定家が百歌仙・百名歌を選ぶまで」久保田淳
 定家の選定基準についての考察。「何を選ぶか」よりも「誰を選ぶか」「その人をどのくらい評価しているか」に比重が置かれています。結びには丸谷才一『新々百人一首』のことも。

「『型』という思想 和歌とともに守り続けてきたもの」冷泉為人インタビュー
 「型」の重要性から、丸暗記も必要と説きます。現代人は「推し量る」ことができなくなってしまったと思っていたのに、ある日「KY」という言葉を聞いた、というエピソードには、目から鱗でした。

「伝統を継ぐ、歌とつながる 百人一首をいま読むということ」馬場あき子×水原紫苑
 同じ歌でも理屈っぽいと感じる馬場氏と、韻律的ないい歌だと感じる水原氏。技巧に走らざるを得なかった定家。評論と違い対談だと「弱っている」だとか「情念」だとかストレートな言葉が使われるので和歌と歌人がぐっと身近に感じられます。そして現代短歌について、二人の短歌観が真っ向からぶつかり合います。「感受性を見せ合う」だけの現代短歌に否定的な水原氏に対し、「一種の演技ですよ。そう思えばいいのですよ」と説く馬場氏。和歌の世界とは「中心に王権をおいた和歌共同体というもののなかで中心に向かって発せられている声」だというのは水原氏の弁。お互いの歌のなかで百人一首に入るとしたら、という仮定に、やはり自選と他選は違うものなのですね。

「万葉伝承歌から六歌仙の新風へ」鈴木日出男
 萬葉集あるいは万葉時代の歌のなかから百人一首に採られた歌を取り上げ、元歌と百人一首バージョンを比べ、採用された歌からその時代の好みを読み取り、さらに六歌仙時代の歌の特徴へと筆は進みます。このように時代の流れに沿って整理されると、後の時代になって技巧と調べが重視されてぐんと発達するのがよくわかります。

「短歌のどこがおもしろい!」藤井貞和
 初めのうちは当たり前のことを詩人というのは言葉をこねくり回さないといけないのだなあ、と思っていたのですが、途中から機能語・複屈折の話になり、最後はスカトロで終わります。

百人一首選歌の謎」渡部泰明
 歌の背景も詳しく見ながら、「契りおきし……」の歌が技巧的な歌であることを説きます。『基俊集』にも拠って、さらなる背景を掘り起こしています。

「和歌はうたうもの」青柳隆志
 昔は和歌は実際に歌われていた、というのは、俗説とは言わないまでも正確ではないらしい。歌合わせの際に意味が取れるように抑揚をつけずにゆっくりと時間をかけていたそうです。

「『百人一首』にみる和歌の力 『百人一首』の歴史的位置」五味文彦
 タイトルにあるとおり、和歌の内容や選択ではなく、生まれる背景について述べられたもの。

「『百人一首』の魅力」谷知子
 屏風歌「ちはやふる……」を業平は「くくる」のつもりなのを、定家は「くぐる」と読んだ、と聞くと、途端にごうごうと水の音が聞こえてくるようです。

「『百人一首』の女房歌人たち」田渕句美子
 56和泉式部から62清少納言までを「まるで王朝女流文学史そのもの」とはなるほど上手い評。「大江山いく野の道の遠ければ……」「いにしへの奈良の都の八重桜……」の機知の歌二首は、やはり背景がわかった方が面白い。

「私の好きな百人一首 キラキラ白い菊の花」橋本治
 「心あてに折らばや折らむ初霜の置きまどはせる白菊の花」凡河内躬恒

「私の好きな百人一首 蝉丸の背中は語る」蜂飼耳

「私の好きな百人一首 追想の様式」福嶋亮大
 「人はいさ心も知らず……」

「小倉色紙と百人一首 藤原定家の謎にせまる」兼築信行×名児耶明
 定家の筆跡はいかなるものだったのか。年代、健康状態、公的か私的か、さまざまな視点から実際の定家の筆跡を見つける試みが今現在も為されているようです。

「王朝の墓 百人一首の構造」高橋睦郎
 「和歌による王朝時代の総括であり、あえていえば墳墓だ」というのが高橋氏の結論。『百人一首 恋する宮廷』に水原紫苑との対談が再録されているらしい。

「千早の本名」池内紀
 ほかの方々がまがりなりにも歌についての解釈を書いているにもかかわらず、池内さんは個人的な思い出話のみ。池内さんクラスになると自由なんだなあ。

「Q&A『ちはやふる』はこうして生まれた」末次由紀
 百人一首ブームの立役者。インタビューではなく「Q&A」ということは書面 or メールでしょうか。

「インタビュー 無意識を意識する」西郷直樹

「インタビュー 五〇枚とつながる瞬間の奇跡」楠木早紀
 名人とクイーン各々のインタビューですが。。。いやいやいやいや(^^; 二人ともただの天才じゃないですか。かるたをやってる皆さん、努力しても無駄です。これは才能です。

「『百人一首歌かるた』の近代化 競技かるたの成立と変遷」吉海直人
 現在の競技かるたの生みの親が黒岩涙香だったとは。ルールどうこうではなく、札の製造元や表記でごたごたがあったんですね。今から思えば不毛なことを。

「描かれた百人一首の世界 歌意絵の変遷をめぐって」鈴木健一
 「歌意絵」とは、歌の作者を描いた「歌仙絵」に対して、作品世界をビジュアル化したもの。素朴なイラスト化から始まって、もはやなぞなぞの珍品まで。

「女の艶歌 後朝の歌から」木村朗子
 「百人一首の、詞書きの一つもない、コンテクスト・フリーぶりはどうだろう」、「よくぞ物語の誘惑に負けなかったと感心するばかり」、

「私の好きな百人一首 あしびきの」小池昌代

「私の好きな百人一首 季節の淡い瞬間」平松洋子
 「君がため春の野に出て……」

「私の好きな百人一首 蝉丸および蝉丸になれない我々、または、いかにして我々は蝉丸にならんとするか」郡司ペギオ幸夫

  


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