『謎解きはディナーのあとで』東川篤哉(小学館文庫)★★★☆☆

 言わずと知れた東川篤哉出世作

 しかしながら烏賊川市シリーズのような丁々発止の掛け合い(アホな会話)は見られません。麗子お嬢様はつっこみ役には力不足です。

 短篇であるためそういった遊び成分が少なく、それゆえに謎解きものとしてより純粋な形が取られているとも言えますが。謎解きは安楽椅子探偵の形を取り、いずれの話でも消去法で犯人が絞り込まれてゆきます。この絞り込み方が実にスマートで、消去法の推理には論理の美しさはあってもケレンがなくてあまり好きではないわたしでも、楽しめるようなわかりやすい手順が踏まれていました。

 第五話「二股にはお気をつけください」は、男の全裸死体が発見され、犯行推定時刻近くに被害者と一緒の女が目撃されていた……という事件です。いくら鈍いわたしでも、身長の話が出た時点である程度の全体像は類推できたのですが、最後に真犯人を特定するための手がかりは身長の話より前に書かれているため、ぼうっとしていると気づきません。だけど注意深い読者ならおそらく気づくであろうあからさまな手がかり。この「言われてみればわかりやすい手がかり・伏線」が著者の持ち味でしょう。

 好きな話を選ぶなら、第一話「殺人現場では靴をお脱ぎください」の犯人の隠し方(見せ方)や、第六話「死者からの伝言をどうぞ」の〈マンドリン〉のバリエーションなどが秀逸でした。

 ブーツを履いたまま室内で発見された死体。ワインボトルにもグラスにも毒を仕込めない状況で毒殺された死体。薔薇のベッドに移動させられた美しい死体。結婚式に招待された麗子たちがいる現場で刺された花嫁。殺害後に全裸にされた死体。殴殺後に二階に投げ込まれた凶器のトロフィー。そして麗子のもとに贈り物が届くエピローグ的な「宝生家の異常な愛情」。の全7篇。

 国立署の新米刑事、宝生麗子は世界的に有名な『宝生グループ』のお嬢様。『風祭モータース』の御曹司である風祭警部の下で、数々の事件に奮闘中だ。

 大豪邸に帰ると、地味なパンツスーツからドレスに着替えてディナーを楽しむ麗子だが、難解な事件にぶちあたるたびに、その一部始終を相談する相手は“執事兼運転手”の影山。「お嬢様の目は節穴でございますか?」――暴言すれすれの毒舌で麗子の推理力のなさを指摘しつつも、影山は鮮やかに事件の謎を解き明かしていく。

 二〇一一年ベストセラー一位のミステリ、待望の文庫化。書き下ろしショートショート『宝生家の異常な愛情』収録。(カバー裏あらすじより)

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