『キョウカンカク 美しき夜に』天祢涼(講談社文庫)
第43回メフィスト賞受賞作です。
実際の共感覚をアレンジした感のある〈能力〉のようなもの、ノベルズ版の表紙に描かれたイッちゃってる感じのイラスト――この二点から、てっきりエキセントリックなキャラクターがぶっ飛んだ言動をするラノベ調の作品なのかと思っていたのですが、登場するのは意外と落ち着いた人たちでした。いやまあ、銀髪の元お嬢様だなんて、存在自体がぶっ飛んではいるのですが。
探偵役の雨宮美夜は、共感覚によって声から殺人願望が見えてしまうのですが、この作品の面白いのは何と言っても、「人を殺したい」「人を殺した」イコール「連続殺人の犯人」ではない、というところでしょう。「わかって」から推理するという探偵は過去にもいたように思いますが、中盤すぐに見え見えの容疑者が明らかにされてからも、強力な「なぜ」と探偵自身によるアリバイが大きな牽引力となっていきます。
しかも解決編を読めばわかりますが、単純に「見えた」からというだけではなく、きっちりと手がかりや伏線をもとに推理していたことがわかります。
特殊能力とホワイとアリバイと伏線がバランスよく配置された作品でした。
死体を燃やす殺人鬼・フレイムに妹を殺された天弥山紫郎《あまや・さんしろう》は、音が見える探偵・音宮美夜《おとみや・みや》と捜査に乗り出す。美夜は殺意の声を見てフレイムを特定するも、動機がわからない。一方、山紫郎は別の人物を疑い……。ホワイダニット(動機のミステリ)の新たな金字塔が登場! 第43回メフィスト賞受賞作を全面改稿。(カバーあらすじ)
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