『緑の光線』ジュール・ヴェルヌ/中村三郎・小高美保訳(文遊社)★★★☆☆

緑の光線(Le Rayon-vert,Jules Verne,1882)★★★☆☆
 ――サムとシブ・メルヴィル兄弟の生き甲斐は、姪のミス・キャンベル(ヘレーナ)を幸福にしてやることだった。ミス・キャンベルの結婚相手として二人のめがねにかなったアリストビューラス・ウルシクロスという若い学者だった。だが結婚の話を聞いたミス・キャンベルは言った。「結婚! 絶対にしないわ……緑の光線を見るまでは!」〈モーニング・ポスト〉で紹介されていた、太陽が沈む直前に一瞬だけ見える「緑の光線」の記事を読んで、乙女の想像力をかき立てられたのだ。かくして緑の光線が見える水平線の見える場所まで旅に出かけた一行は、折りしも渦潮に巻き込まれそうになっていた絵描きオリヴァー・シンクレアの救助に居合わせ……。

 タイトルはSFチックですが、「緑の光線」とは稀とはいえ実際にある自然現象で、光線を見に行くために冒険を繰り広げるわけでもないので〈驚異の旅〉シリーズでもありません。活動的な女性が主人公という点でヴェルヌ作品として珍しい部類に入りそうです。

 SFも冒険もない代わりに、コメディ要素があって楽しめました。ミス・キャンベルの婿候補として登場するアリストビューラス・ウルシクロスという学者が、面白味がない・空気が読めない・間が悪いという三無し男。むしろ待ってました!とばかりに、大事な場面のことごとくでやらかしてくれます。

 最後にはちょこっと、嵐の日に洞窟で波に流されそうになるという冒険要素もありました。
 

「メキシコの悲劇」(Un drame au Mexique,1851)★★★☆☆
 ――ドン・オルテバ艦長率いるスペインのコンスタンシア号では、ひそかに反乱の企てがなされていた。マルティネス大尉はホセ甲板員とともに反乱を起こし、船をメキシコに売ろうとした。だがメキシコに到着したとき、艦長子飼いのパブロ見習士官とハコポ水兵の姿が消えていた。

 本邦初訳でしょうか? ヴェルヌ最初期の作品です。帆桁に頭を潰された艦長を連想させるように岩に押しつぶされた蛇を初めとして、じわじわと輪を狭めてくる復讐の影が不気味で、かなり短い作品ながら楽しめました。

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