『巨匠とマルガリータ(上・下)』ブルガーコフ/水野忠夫訳(岩波文庫)★★★★★

 『Мастер и Маргарита』Михаил Булгаков,1966年。

 編集長ベルリオーズが詩人のイワンに向かって、イエス・キリストは存在しないという話をしているところに、教授だと名乗る外国人ふうの男が現れ、ベルリオーズの未来を予言したあと、「イエスは存在した。私がこの目で見たのだから」と話し始めるのだった。予言通りの運命をたどったベルリオーズを見て、教授を捕まえようとしたイワンは病院に入れられてしまう。ヴォランド教授は背の高い鼻眼鏡のコロヴィエフと大きな黒猫ベゲモートと赤毛のアザゼッロとともに、ベルリオーズのアパートに居座り、劇場支配人ステパンと契約して黒魔術を披露する。一方、入院しているイワンの許に隣の病室から「巨匠《マースチェル》」と名乗る小説家が忍び込み、かつて自分が書いたポンペイウス・ピラトゥスの物語を話し出すのだった。やがて巨匠の不倫相手だったマルガリータは、ヴォランドから舞踏会の女主人として招かれ、魔女となって夜空を翔けるのだった……。

 物語の大部分は、道化役のベゲモートを筆頭にした馬鹿騒ぎに費やされていると言ってもよいでしょう。そうした馬鹿騒ぎの行き着く先は、冒頭のベルリオーズの悲劇を別にすれば、お決まりの葉っぱ(ならぬラベル)の紙幣のほか、下着で外を歩いていたら逮捕される、外貨を持っていたら逮捕される等、下世話な世間の現実でした。

 巨匠の書いた小説は現実のピラトゥスと呼応し、マタイの書いたメモがヨシュアの言葉とは乖離していると考え合わせれば、巨匠の小説こそ福音だったのでしょうか、何だかんだ言いつつハッピーエンドに近いような結末でした。残された者たちはたまったものじゃありませんが、その他大勢なんてこの世の摂理にとって誤差みたいなものなのでしょう。

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