『メキメキえんぴつ』収録の作品を、アニメDVD付きでシングルカット(?)したものです。
「大きくなったら、パパみたいな、りっぱなお医者さんになるんだ」――そんなこと、言わなければよかった。夏休みのある日、ぼくは遊び相手がいなかったので、校庭の花だんにあるカンナの花を、ぼんやりとちぎっては捨て、ちぎっては捨てていた。
取り返しのつかないことは、ある。それが悪意といったものではなく、何気なくおこなっていることだからこそ、真実を突きつけられたときの後悔や衝撃や恐怖には並々ならぬものがあります。これは理不尽、なのでしょうか。因果応報、なのでしょうか。
大きくなった主人公は、戸惑いながらも、お医者さんであろうとします。――が、知識もない主人公の行動は、お医者さんごっこでしかありません。子どもの心が現実に付いていっていないその行動が、怖すぎます。はたから見れば、変質者でしかないのですから。
でありながら、「立っていらっしゃい」という、生徒に対するような先生の対応。ずれています。因果律がおかしい。この時点で、これは間違った世界だ、という予兆のようなものを感じます。そして世界はもとには戻らない。
DVDではカンナさんがちょっと笑ゥせぇるすまん風に登場します。絵は大海赫の版画とは違うアニメオリジナル。点描風の登場人物が、これはこれで怖い。
あとがきに記された〈児童文学〉に対する著者の考えが胸を穿ちます。
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