『遊郭《さと》のはなし』長島槇子(メディアファクトリー)★★☆☆☆

遊郭《さと》のはなし』長島槇子(メディアファクトリー

 2008年刊。第2回『幽』怪談文学賞長編部門特別賞受賞作。

 長篇とはいえ実質的には掌篇のつらなりで、読売屋が遊廓「百燈楼」の元女中から聞いた赤い櫛の怪異を皮切りに、「百燈楼」のその後を知るため遊廓関係者から怪談を聞いてゆくという形が取られています。もちろん最後には「百燈楼」にたどり着き、巻頭の怪のリプリーズで締めくくられるのですが……。

 致命的なのは怖くないということと、さまざまな立場の人間から話を聞いているにもかかわらずどれも似たり寄ったりの印象しか残らないこと、そして掌篇ゆえの物足りなさでしょうか。

 内容は聞き語りとはいえ本文は三人称の小説体で書かれており、聞き語り特有の隔靴掻痒感はないはずなのですが、どこか現実感が足りません。遊廓と怪異という現代の日常とは異なる「ここではない」題材に引きずられて、ファンタジーのような浮遊感が漂ってしまったようです。

 第一話「赤い櫛 * 女中のはなし」は、遊廓に伝わる「赤い櫛を拾うと死ぬ」という噂話を巡る怪異ともいえないような暗合が描かれていて、プロローグ的な位置づけの作品でした。続く「死化粧 * 妓夫のはなし」では焼死した花魁の怪、「八幡の鏡 * 女将のはなし」では鏡の世界に取り込まれる「八幡の藪知らず」ならぬ「八幡の鏡」が描かれ、そこからはその楼に伝わる七不思議が順次語られてゆきます。

 グロテスクなシーンはあっても総じて怖くはなく、帯にある岩井志麻子の推薦文「黄昏時に薄墨色の夢」という言葉が悪い意味でぴったりするような、全体的にぱっとしない作品集でした。

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