『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社)★★★☆☆

『眺海の館』ロバート・ルイス・スティーヴンソン/井伊順彦編訳(論創社

 『The Pavilion on the Links and Other Stories』Robert Louis Stevenson,2019年。

 本邦初訳や初訳ヴァージョンを含む日本オリジナル短篇集。『寓話』が短篇集なので実質26篇収録されています。前半四篇は古典新訳文庫『臨海楼綺譚 新アラビア夜話 第二部』でも読むことができます。

 

「眺海の館」赤星美樹訳(The Pavilion on the Links,1880)★★★☆☆
 ――子どもたちよ、わたしがおまえたちの母となる女性と出会った経緯を話そう。砂丘の草原にあるノースモアの館を再訪したときのことだ。夜中に船から降りてきた人々のなかに、美しい女性とほかならぬノースモアがいた。ハドルストン氏は破産を免れるために犯罪まがいに手を染め、イタリア人に命を狙われることとなった。そこでノースモアに助けを求め、隠れ家を提供してもらう代わりに美しい娘クララを嫁に差し出すことになったのだという。その娘というのがおまえたちの母さんだ。

 最初の四篇は『新アラビア夜話』第二巻の全訳です。一話目となる本篇は旧訳「臨海楼綺譚」とは違い単行本版ではなく初出版をもとにしています。コナン・ドイルの評価は高かったようですが、あまり冒険味はなく、終盤になって冒険になりそうな展開になるものの結局何もないまま終わってしまいます。外国の殺し屋、愛のない結婚、親友との三角関係など、長篇ならば盛り上がったであろう要素があるだけにもったいない作品でした。
 

「一夜の宿り」赤星美樹訳(A Lodging for the Night,1877)★★☆☆☆
 ――フランソワ・ヴィヨンが酒を飲んでいると、喧嘩が始まり一人が刺し殺されてしまった。死体の金を四等分して現場から逃げ出したが、ヴィヨンは金を掏られたことに気づかなかった。金もなく行き場もないまま、ヴィヨンは見かけた家の扉を叩いた。高潔そうな老人が扉を開けた。

 従来スティーヴンソンの第一作と伝えられてきましたが実際には「An Old Song」が第一作なのだそうです。ヴィヨンと老人が議論するという趣向。岩波文庫『マーカイム』に旧訳あり。
 

「マレトロワ邸の扉」岩崎たまゑ訳(The Sire de Maletroit's Door,1877)★★★☆☆
 ――ドニ・ド・ボーリューは兵士に見つかり邸宅のなかに逃げ込んだ。やり過ごしてから外に出ようとしたが、扉はうんともすんとも言わない。邸宅のあるじはドニのことを別人と勘違いしているらしく、娘のブランシュと結婚するか死ぬかの選択を迫られた。

 もっともオーソドックスな作品で、それだけに安心して読めました。
 

「神慮はギターとともに」赤星美樹訳(Providence and the Guitar,1878)
 

『寓話』大下英津子訳(Fables,1896)★★☆☆☆
 ――『宝島』の第三二章が終わると、操り人形二体が、次の仕事前に一服しようと外に出てきて、物語からそう遠くない空き地で顔を合わせた。「おはようございます、スモレット船長」「シルヴァー、悪ふざけはやめろ」

 全二〇篇からなる掌篇集。最後の一篇は『宝島』の続きという趣向です。実際の続きではなくセルフ・パロディに過ぎないのですが、ファンには嬉しい作品でした。
 

「宿なし女」岩崎たまゑ訳(The Waif Woman,1914)
 

「慈善市」井伊順彦訳(The Charity Bazaar,1898)★☆☆☆☆
 ――呼び込み「ご来場のみなさま、数々の品物を販売中」。一般人「慈善市じゃありませんかね」。呼び込み「おっしゃるとおりで」。一般人「素人が相場より高く売る場じゃありませんかね」

 生前未刊行の本邦初訳作品。戯曲というわけではなく、戯曲風に書かれた作品であるらしい。初訳を謳うほどの作品ではないです。

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