『The Blind Barber』John Dickson Carr,1934年。
新訳を機に読み返してみましたが、やはりしんどかったです。新訳のおかげで笑いどころがわかりやすくなっていることを期待していたのですが、台詞が新しく軽くなったせいで空々しさが際立つ結果になっていました。
シチュエーションや機知や台詞廻しなどではなく、ただただおバカな人たちが過剰なまでの「ぼくっておバカでしょう?」発言の応酬を繰り返すので、読み進めるのが苦痛でした。
どうでもいいことをさも面白いことであるかのようにC調言葉(!)で話すキャプテン・ヴァルヴィックに、フィルムが盗まれたことやフィルムの内容が政治スキャンダル(?)であることなどをいちいち大げさにわめいて説明するウォーレン、それにいちいち反応するペギー・グレン……誰か特定の芸人や俳優に置き換えて読み進められればよかったのでしょうけれど、なかなかしっくりくる人が思い浮かびませんでした。
最後の最後になってようやくフェル博士が、被害者の遺体を消した理由から消去法的に犯人を類推するのが推理小説らしい場面でした。決定的な推理というよりは常識的にこうだろうという程度なのですが、長い悪ふざけを読まされたあとでは輝いていました。けれどいかんせん、カタルシスがまったくありません。途中にもう少し盛り上がりがあればよかったのですが。
タイトルの盲目の理髪師とは、凶器に用いられた剃刀の柄に彫られた意匠で、曜日ごとに違う剃刀を使う7本セットの日曜日のものです。盲目だからお休みということでしょうか。blindは酔っ払いにも掛けているのかもしれません。
大西洋上の豪華客船で重大な盗難事件と奇怪な殺人事件が発生する。なくなったはずのエメラルドがいつの間にか持ち主のもとにもどったり、被害者が消えたあとに〈盲目の理髪師〉が柄にあしらわれた、血まみれの剃刀が残っていたり。すれ違いと酔っ払いの大騒ぎに織り込まれる、不気味なサスペンスと度肝を抜くトリック。フェル博士が安楽椅子探偵を務める本格長編、新訳で登場。(カバーあらすじ)
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