交流のあった「柳」田國男と泉鏡「花」の作品から、互いに「所縁深き作品群」を収録したアンソロジーです。 『山海評判記』泉鏡花(1929)★★★★☆ ――能登の旅館に泊まった小説家の矢野誓は、按摩から「長太居るか」の昔話を聞く。山に住む若者・長太が、化け狸…
国書刊行会〈魔法の本棚〉版に「何と冷たい小さな君の手よ」「スタア来臨」の二篇を加えた文庫版。 「学友」(The School Friend,1964)★★★★☆ ――学生時分の友人サリーは大学に進み、私たちは疎遠になりましたが、四十一の年、私は両親の元へ出戻りと相成り…
シュオッブ全集より「擬曲」『モネルの書』を読む。 「擬曲《ミーム》」大濱甫訳(Mimes,1893)★★★☆☆ ――「お前を鞭で打たせてやろう。お上が禁じているのに、どうして八目鰻を売っていたんだ?」「御禁制とは知りませんでした」「このあばずれ、裸にひんむ…
『Земная ось』Валерий Яковлевич Брюсов,1911年。 「地下牢」(В подземной тюрьме,1901-1905) ――征服された軍司令官の娘はスルタンの大宰相になびこうとしなかったため、地下牢に入れられた。牢番に犯され、殴られたが、マルコという青年受刑者と恋に落…
守り人シリーズ初めての前・後編です。 バルサがたまたま助けた少女が、体内に「神」を宿す血筋だったことから、刺客に追われることになります。何しろ多勢に無勢、本書のバルサは(特に後半は)押され気味で、これまでのような活躍を期待するとやや消化不良…
京極夏彦による遠野物語えほんシリーズですが、中川学のファンなので、そちら目当てで読みました。遠野物語の第三段と第七段が絵本化されています。 まずは第三段・山女の話です。文章には書かれていませんが、当然ながら猟犬も一緒なんだな、と気づかされま…
禁書についての議論、戦争回避のための外交戦略、狙われるマツリカ、外交本番……いよいよ興に乗って第三巻は留まるところを知りません。 禁書についてのくだりでは知的好奇心を刺激され、この世界を形作る壮大な絵図を改めて実感しました。マツリカを狙う刺客…
鍛冶屋の少年キリヒトのところに、王城からの使いが現れ、「図書館の魔女」マツリカの許に仕えるようになる……これだけ聞けば、何も知らない無垢な少年が、広い世界を知り人と出会いかけがえのない経験をする、サクセスストーリーであり成長物語である――よう…
風に飛ばされた帽子は、ばけねこの頭の上に乗ってしまいました。帽子を返してほしければ、お嫁さんになれ、と脅すばけねこに、トコは「うまく化けたところを見せてくれたら」と答えました。 傑作『ビビをみた!』の著者による絵本です。ばけねことトコの愛ら…
『Evil Eye: Four Novellas of Love Gone Wrong』Joyce Carol Oates,2013年。 「邪眼」(Evil Eye)★★★★★ ――それは最初の妻のものだ、と彼は言う。ナザールと言って、邪眼を払うお守りだ。彼女はその男の四番目の妻だった。結婚して数週間後、レセプション…
故郷に帰ってきたバルサが、ジグロと自分が故郷を離れなくてはならなくなった原因と、ついに対峙します。 『ネムキ』で連載されている結布による漫画化を何回か読んでいましたが、ほぼ原作通りのようです。……というか、一回読んでいるはずなのに完全に忘れて…
『The Sundial』Shirley Jackson,1958年。 ハロラン家の長男ライオネルが死んだ。これで一家の実権は現当主の妻オリアナが握ることになった。当主のリチャード・ハロランは足も萎え痴呆が始まっている。オリアナが殺したのだ、とライオネルの妻メリージェー…
『Twelve Collections and Teashop』Zoran Živković。2007年刊行の英訳本からの翻訳。掌篇連作『12人の蒐集家』に短篇「ティーショップ」を併録したものです。誰が最初にボルヘスになぞらえたのかわかりませんが、ボルヘスとは全然ちがう、ファンタジーらし…
第一短篇集『二重の心』に続いて第二短篇集『黄金仮面の王』を読む。『黄金仮面の王』(Le Roi au masque d'or)「黄金仮面の王」多田智満子訳(Le Roi au masque d'or)★★★★☆ ――この都は仮面をつけた歴代の王が支配するようになって久しい。僧侶たちですら…
『St. Petri-Schnee』Leo Perutz,1933年。 アムベルクは目覚めると病室のベッドの上だった。あの人は死ななかった。わたしが銃弾の前に立ちはだかったからだ。なのに医師や看護婦は、わたしは車にはねられて五週間前から入院していると嘘をつく……。父の知己…
「鉄のつめ」(1952~1953) ――手術で救った投手からもらったサインボールは、登の父親・井上博士の宝物だった。父親の講演旅行中に、小学校のみんなに自慢したくてこっそり持ち出したサインボールを、悪少年の立次に奪われてしまった。登は奪い返しにいくが…
『Tunneling to the Center of the Earth』Kevin Wilson,2009年。 シャーリイ・ジャクスン賞&全米図書館協会アレックス賞受賞作。 「替え玉」(Grand Stand-In)★★★★☆ ――この仕事のコツは、自分こそがお祖母ちゃんだと常に思い込むことだ。「祖母募集しま…
『Les Œvres completes de Marcel Schwob』 「栞」山尾悠子・西崎憲ほか。蔵書票付き。 まずは『二重の心』を読む。『二重の心』(Cœur double,1891)「I 二重の心」(I. Cœur double)「吸血鬼」大濱甫訳(Les Striges) ――限りある人の生のむなしさを、…
こうした作品に〈仕掛け〉という言葉を使うのは適切ではないとは思うのですが、著者が著者だけに〈仕掛け〉と呼びたくなる造りがほどこされています。けれどその〈仕掛け〉は、「いるんだよ。」「いるんだよ。」、「ひつようなんだ。」「ひつようなんだ。」…
「明治文学はなぜ面白いのか?」高橋源一郎×坪内祐三×水原紫苑 ちょうど坪内祐三編による『明治の文学』全25巻が刊行された時期だったらしく、それが理由による鼎談のようです。一応のところ「明治に最も注目している(と思われる)3人に」と書かれていま…
『メキメキえんぴつ』収録の作品を、アニメDVD付きでシングルカット(?)したものです。 「大きくなったら、パパみたいな、りっぱなお医者さんになるんだ」――そんなこと、言わなければよかった。夏休みのある日、ぼくは遊び相手がいなかったので、校庭の…
このはこ、なんだっけ? あかない はこ。ふると、コソコソ、おとがする。あめの ふるひ、はこが あいてた。からっぽの はこ。なかみは どこに いったのかな? 箱のなかにモンスターがいる――のかどうか、すらわかりません。あるいは箱自体が怪異なのかもしれ…
『Nice Big American Baby』Judy Budnitz,2005年。 ジュディ・バドニッツの第三作にして最新作品集。「わたしたちの来たところ」(Where We Come From)★★★★☆ ――七人の息子をもつ女が望まぬ娘を生んだ。それでも愛そうとして「プレシャス(たからもの)」と…
『Der schwedische Reiter』Leo Perutz,1936年。 老婦人が経験した少女時代の不思議な思い出。逃亡中の泥坊と脱走中の兵の前に現れる、死者としか思えない粉屋。――幻想と怪奇に彩られて幕を開けた物語は、けれどすぐに、盗っ人と貴族の人物入れ替わりという…
中川学による泉鏡花ビジュアル化の新作です。 さほど有名ではない原作ですが、読んでみれば原作自体もまぎれもない傑作でした。 怪しい夢を見た雑所先生が小使の源助に内容を伝える、「昨日な、……昨夜とは言わん。」という言葉。夜に見た夢ではなく白昼夢で…
変愛小説集日本編――ですが、既存作品のアンソロジーではなく、書き下ろしなんですね……。文庫版には木下古栗の作品が収録されていません。 「形見」川上弘美 ★★★★★ ――夫は今までに三回結婚している。わたしは二回。今までゆうに五十人は子供を育てたろうか。…
『Die Geburt des Antichrist』Leo Perutz,1921年。 靴直しのフィリッポは元殺人犯でした。ある夜、夢でヨハネのお告げを聞きます。生まれた子どもはアンチクリストだ。人殺しと脱走した尼僧のあいだに生まれた者は、戦争と擾乱をもたらすであろう。靴直し…
『Captain Brassbound's conversion』George Bernard Shaw,1899年。 バーナード・ショーによる戯曲。もちろんショー自身も著名な劇作家なのですが、本書が2014年になって復刊されたのは、翻訳者が松村みね子(片山廣子)であるという点に負うのでしょう。か…
岩波少年文庫のホラー・アンソロジー、フランス篇。「青ひげ」シャルル・ペロー(La Barbe bleue,Charles Perrault,1697)★★★☆☆ ――昔々あるところに、大金持ちの男がいた。男のひげは不気味な青色をしていたため、女たちは逃げ出さずにいられなかった。そ…
『Die Rreise mit der Zeitmashine』Egon Friedell,1946年。 ウェルズの「タイムマシン」後日譚です。 未来から戻り、過去に旅立ったまま戻って来なかったタイムトラベラーは、その後どうなったのか――? そのことが気になった語り手のエーゴン・フリーデル…